ヴァルールについて
芸術論とひとりごと
ヴァルールの概念は絵画にとって非常に大切です。
彫刻における『抵抗感のある形そのもの』であり、『彫刻自体の存在の強さ』を支える最重要素に相当します。
以下に人間の目と脳の働きから順を追って、ヴァルールについて解説してみます。
人間の目と脳の働き
1. まぶたを開いて実風景のどこにもピントを合わせないようにしてみましょう。
この時にも眼球から無限遠までのどこかにピントが合った距離があります。
この時にも眼球から無限遠までのどこかにピントが合った距離があります。
2. 意図的にピントを対象から外す場合を除いて、
脳は見ようとする対象に常に焦点を合わせようとしますし、
見ようとする対象にピントが合わない状態を嫌います。
脳は見ようとする対象に常に焦点を合わせようとしますし、
見ようとする対象にピントが合わない状態を嫌います。
3. 対象物を見た瞬間、それが近景であれば遠景はボケて
遠景であれば近景はボケて見えています。
しかし、人間の目のピント調節機能は大変滑らかで素早いので、
近景から遠景へまたその逆に視線を動かしても焦点の合った景色を見ることが出来ます。
遠景であれば近景はボケて見えています。
しかし、人間の目のピント調節機能は大変滑らかで素早いので、
近景から遠景へまたその逆に視線を動かしても焦点の合った景色を見ることが出来ます。
4. 瞬時にピントを合わせることは脳の様々な学習経験により可能となっています。
例)コントラスト、図の重なり、大小比較、彩度比較 など
これらは脳の学習によって蓄積されていますので、目の開いたばかりの赤ちゃんは
スムーズにピント調節が出来ていないはずです。
例)コントラスト、図の重なり、大小比較、彩度比較 など
これらは脳の学習によって蓄積されていますので、目の開いたばかりの赤ちゃんは
スムーズにピント調節が出来ていないはずです。
絵は画面上の全ての場所が明確でなければならない。
現実世界では、近景と遠景が、同時にピントが合っている状態はあり得ません。
しかし、絵の場合には、画面上の全ての場所が明確でなければなりません。
絵の成立は特殊な状態なのです。
ヴァルールの解説
たとえば風景を描く場合には、近景に比べて遠景はぼかして描くのではなく
明確に遠くに見える様に描かれなければなりません。
この時の「明確な位置感」を「ヴァルール」と言います。
明確な位置感の無い状態は、脳にとって、度の合わないメガネを掛けた状態に相当します
図や色が正確に描き写されただけのイラストもこの類です。
加えて、モチーフの位置関係、大小関係、など様々な比較関係を守りながら、
最も美なヴァルールを探させなければなりません。
そして「最も望ましい、美で明確な位置感」を「ヴァルールが合っている」と言います。
ヴァルールが合った絵のヴァルールは、
絵の具の物質感、艶、マチエール、周囲とのコントラスト、絵の具の重なり具合、透過具合、
その他全ての要素を絡めた『唯一無二の表情』です。
油絵の具は物質的な特性上、ヴァルールの意識が最も自然に芽生え易い画材です。
ヴァルールから見た「具象絵画」と「抽象絵画」
簡単に言うと、守らなければならない約束事が多いのが具象絵画で
守るべき約束事がほとんど無いのが抽象絵画です。
守らなければならない約束事というのは、モチーフの位置関係、大小、遠近、等のことです。
無限の中から唯一の『これだ、と言える表情』を創り出すわけですから、
具象絵画、抽象絵画のどちらかが難しいということはありませんが、
『自由すぎる不自由』の観点から考えると、
適度な決まり事があった方が制作を進め易いでしょう。
具象絵画、抽象絵画のどちらかが難しいということはありませんが、
『自由すぎる不自由』の観点から考えると、
適度な決まり事があった方が制作を進め易いでしょう。