画材には限り無い贅沢を
私は絵を志して上京した18歳の春からこれまで画材に関しては何をさしおいても贅沢してきた。
そして世界最高の画材しか使わない態度は30年経った今も変わらない。
18歳当時は家賃、生活費、画材費を合わせて1か月8万円でやっていた。
30年前とはいえ実家から仕送りしてもらえるその金額だけで
全てを賄うのはなかなか大変だった。
美術予備校のカリキュラムがデッサンの時には助かるが、
油絵が続くとたちまち困窮しカロリーも満足に取れない食生活を送る事になる。
おかげで体型は今と違い大変スマートだった。
どんな時も絵の具やキャンヴァス、筆といった画材に妥協することは一切し無いし
お金が無くなれば、パンの耳やキャベツをかじり、小麦粉を焼いて食べるまでのこと。
絵の具や筆などの画材は「はい、これが世界最高品質ですよ」という風に
最初からわかっていれば良いのだけれど、「どれが本当に最高品質なのか」は
全ての製品を使ってみなければわからないのが大変だった。
食べるものも食べず、何故世界最高の画材を使う事にこだわったのか
今の自分に問うてみる。
一つにそれは、いつ世紀の大傑作が生まれないとも限らない、
その作品を最良の状態で後世に残す為の責任から。
また、使い慣れた色の絵の具、筆、等全ての画材は
自分にとって制作の物差しになるからだった。
ただでさえ難しい内容に挑むのに、基準となるものが
ころころ変わったのでは満足な制作が出来るはずはない。
そして一番大切だったのは、自分の志の高さと同じものを使いたい
私の気概からだったのだと思う。