夢の不思議『初夢と二回目の富士』
一富士、二鷹、三なずび、初夢に縁起が良い順番は確かこんな並びだったと思う。
これまで私は富士山の夢を二回見たことがある。
一回目は一浪して芸大を目指していた32年前だった。
例によって夢のこと、何故だかわからないがその年最初の夢の中で
私は垂直の崖を登っていた。
フリークライミングの趣味も経験も無い私は夢の中で必死で岩を掴み
足場を確かめながら崖を這い上がっていた。
もう大分登っているのは疲労の按配と雰囲気でわかる。
手掛かり足がかりが良い岩を捉えた所でようやく周りを見る余裕が生まれた。
足元の遥か下には平野が広がっている。
そしてそのまま視線の行き着く彼方に富士山が聳えていた。
真っ青に晴れ渡った空、富士は縦に倍に伸びあがったフォルムに
デフォルメされた初夢スペシャルバージョンだった。
目出たい夢のことは郷里への電話の中で、友達との会話の中で
幾度となく話題にしたことを覚えている。
そして一か月ほど経ったある日、私はもう一度夢に富士を見る事になる。
険しい斜面を登っているのは前回と同じ。
そして頂上に立った私は、今一つの谷を挟んだ遥か向こうに夕陽を浴びた富士山を目にした。
時は二月入試も近い、何ら確かな手応えも掴めぬまま
画面と格闘を続ける私はこの夢を封印したまま3月を迎えた。
結果一浪目の終わりに春は来ず、上野の桜を見るのにはもう一年の時間が必要となった。