「密かな成功者」

密かな成功者

昨年の正月、確か3日だったと思う。
細の実家で新年を過ごした帰り道、カレーが食べたくなった私と細は
前にも数回立ち寄ったことがある本格インド料理の店に車を停めた。

スタッフは全員インドの人で
正月料理の味に飽きた舌にナンで頂くカレーはとても美味しかった。
私はいつもの様に大辛カレーにナンをお替りして満腹で大汗。

レジへ向かい会計を済ませると、
「前に忘れ物しましたね」と言われた。
口をついて出たのは「えっ」という音のみで意味を測りかねていると、
インド人青年はレジ下の収納から袋を出して渡した。

忘れ物とはほとんど無縁に生きてきた私はどうせ人違いだろうと思いながら
袋を開けると思わず「ああっ」と声をあげてしまった。
そこには、探しても見つからないお気に入りのセーターが入っていた。

この店に前回立ち寄ったのも寒い季節、
常連客でもない私はまたいつ来るともしれない。
そんなセーターを1年間取って置いてくれたのである。

私は善と美が一緒にやってくるのを感じながら
忘れ物がまるで昨日の事であるかのような立ち居振る舞いの彼が
すでに密かな人生の成功者なのだと悟った。

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