【第23話】心の中の春風
言葉のスケッチ
正月明けから一枚の作品に掛かりっきりの時間を過ごしていたら
季節の針が一つ進みそうな按配でサインを入れたら浦島太郎気分が味わえた。
制作では1秒間に3本の線を引いたとして一日十時間の制作で十万本の線が集積される。
日数分の掛け算をすると数百万本、その線達が画面を特異な物質感へと変貌させて
アトリエに佇んでいる。
私の画面にある線は全て地塗り層まで削り込まれたいわば溝である。
つまり沢山描かれたところ程物質的には奥に位置する訳だ。
そのオーダーは僅か0.0何ミリの世界だが人間の目は敏感に特異性を感じ取る。
絵が視野に入った瞬間、何が描いてあるかに気が付くよりも速い一瞬に
集積された線達があなたの心を撫でて行くだろう。
その時間に究極の癒しを織り込むことは私の制作のテーマでもある。
太古の昔、人類が最初に描いたのは1本の線であったはずだ。
その線も集まれば、私の画面の中で花になる、猫にもなる、そして感動にもなる。