【第27話】落ちない願い
言葉のスケッチ
今年ももうすぐ七夕だ。
40年前に幼稚園で作った七夕飾りは和紙の色合いが涼し気だった。
27年前下宿の軒先に飾った七夕は友達や大家さんの短冊で賑わった。
そして25年前。
大学一年生だった私はいつもの様に校舎とは別棟、瓦屋根のがらんとした平屋でノスタルジックな大浦食堂にいた。
ふと、「よしっ、七夕やろう」と思い立った私は早速のこぎりを片手に資料館、デザイン棟裏の竹林へ向かった。
その中でこれと決めた立派な竹を早速切りに掛かる。
目立たない場所ではあるがやっていることは派手、しかも怪しい。
そして切ってはみたものの一人で運ぶのは無理。
同級生を助っ人に連れてきて柵を越えて一旦竹を学外へ出す。
そこから大学の外をぐるりと回って正門から堂々の御入校である。
「君達、その竹はまさか本学の、、、、」守衛さんの声に間髪入れず
「鶯谷の大家さんにもらって来ました。」と答えてそのまま闊歩する。
まったく何でも用意しておくものである。
さて、竹は準備が出来た。
次は飾りと短冊である。
生協で色紙をいっぱい買って絵画棟ロビーでごそごそやり始めると
そこは芸大生のこと、あっという間に有志の同志が思い思いの飾りを作り始めてくれる。
これで飾りも大丈夫とみた私は一人短冊を作り始めた
短冊の糸を通す穴のところに小さくちぎった紙を糊で貼り付けて二重にする。
出来上がった短冊は、美術学部、音楽学部の学生さん、食堂のおばちゃん達、
他みんなに配って願い事を下げてもらった。
夕方、学生食堂の前に個性的な飾りと短冊で一杯になった竹を立てると拍手が沸き起こった。
そして翌朝、いつもより早く登校した私は一晩経って、
一枚も落ちることの無かった短冊達を見上げとても嬉しかったのを思い出す。