【第32話】彼岸
言葉のスケッチ
今年の冬は寒かったので、いつまでも冬の様な気がしていたら、
今日は彼岸、慌てて咲いた梅の花に、桜のつぼみが追いつきそうな陽が差している。
昨年末『自在の扉』と思って開けた先は、鬼の棲家だった。
おかげで私は、冬の間アトリエの底深く潜行した時間を過ごすことになってしまった。
日々、上手く行かない制作に、問題点を洗い出す倍率を更に上げて行くと、
とうとう30年間の創作活動全てが「無駄なのではあるまいか?」
と思う所に出てしまい肝を冷やした。
何事によらず事物の本質は、倍率を上げより近づいて見なければ抽象することは出来ない。
それが出来れば、全ては解決したのと同じである。
制作がうまく行かない時は
「砂浜にたった一粒混っている砂金を探し出す様なものだ」
そう考え、アトリエを後にする様にしているが、
それでも又明日、描くことで考え、理解や抽象の粋を見出そうとすることが出来るのは、
一粒の金が在ることを疑わないからである。
歴代の、途中で潰えた才能達が
「もしかしたら本当は何も無いのかもしれない。そうは決して考えてはいけない」
と、私に教えてくれている。
そろそろ冬も終わり、待ち遠しかった春がやってくる。
細は冬の間に私の新しいホームページを作ってくれていた。
ネオは毎日良く寝ていた。
出来上がった作品達は10日後に始まるアートフェア東京に出展する。
そして、それを観て下さる御来場の方々の後姿を私は眺めていたい。