水と油が混じる『テンペラ絵の具』
画材の神さま
水と油、お互い相容れぬ反発するものの例えとして使われる言葉ですが
絵の具にはその両方の性質を併せ持ったものがあります。
歴史は油絵の具よりも古く、油絵の具の先祖的な存在です。
その名を『テンペラ絵の具』と言います。
テンペラ絵の具のミソは、材料的な面からは、鶏卵を使う点にあります。
卵はご存じの通り、水分とも油分とも混じった状態を保つ
不思議な性質を持っています。
どこのご家庭にもあるマヨネーズを思い浮かべて頂ければ
分かり易いと思いますが、酢+油+卵 が混ざってその状態を保っています。
昔は絵の具も画家が作っていましたから顔料を水と卵で溶いて描いたのが始まりで、
そこに乾性油や樹脂分を足して、画家独自の処方箋を編み出した訳です。
「テンペラの処方箋は画家の数だけある」と言われたのもその為です。
皆さんが油絵と聞いてイメージされる絵の具を厚く使う使い方ではなく
薄く何層も重ねて描いて行く絵の具だと思っていただければ良いでしょう。
古典絵画と言われるものは、テンペラ絵の具のそういった特質を生かした描かれ方をしています。
『絵は美しい物質そのものです』
当然ながら絵の具の成分、性質が異なれば出来上がる絵肌は違ったものになります。
魅力的な物質感を獲得した画家の絵の具は秘密を保たれていました。
さて、現代に戻り、絵の具はほとんどの場合絵の具メーカーが作っていますし
画家はそれを使います。
つまり絵の具は同じです。
余程工夫した使い方をしなければ、その画家独自の物質感を
持った絵は出来上がらないことになります。
今日は『絵は美しい物質そのもの』であるが故の、
当たり前の側面をテンペラ絵の具を例に記してみました。